昭和46年の手帳に乱雑に書き留めてあった
いまでも青空に鋏を入れるというヴィジョンは消えない
タイトルは今日つけたものだ
役立たずの大ばか者
なに見て口をあんぐり
二人の紳士があいさつ
「今日はまた格別いい日和で」
「いやー実際、気持ちのいい天気で」
役立たずの大ばか者
口をあんぐり
何と思ってか
突然、付近の金物屋に飛び込んだ
「おやじ、大きな鋏を一つくれ」
「へーい よりどりみどり
散髪用、和裁,洋裁用の鋏、植木の手入れにはこの鋏を
どれにいたしましょう」
実に大ばか者 大ばか者で悪けりゃなんだろう
「こんな小さな鋏じゃ役には立たぬ 青空を切り取るんだから
もっともっと大きなやつを見せろ」
こんな会話が一時間ばかり
そのうち青い空は灰色に翳っていった
背中に大きな鋏を背負って
黒い松並木がどこまでも続いている川原の土手をとぼとぼと
悲しいばかである
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